坪井 多様体 §6 - 多様体上のフロー

2017-05-28 (Sun.)

数学 幾何学

諸定義

アイソトピー

多様体 \(M\) に関して \(M \to M\) なる写像自体が時刻 \(t \in [0, 1]\) に関して連続に写るとする. すなわち \(C^\infty\) 級の \[F : \mathbb{R} \times M \to M\] があるとき、これを \[F : [0,1] \times M \to M\] に制限し、 \(F_t(x) = F(t, x)\) と定めることで、 時刻 \(t\) をパラメータとして取る \[F_t : M \to M\] を得る.

このような \(F_t\) が微分同相であり、かつ \(F_0 = id_M\) のとき、\(F_t\) のことをアイソトピーという.

フロー

\(t\) の定義域を \([0,1]\) に制限する前の \[F : \mathbb{R} \times M \to M\] であって、やはり \[F_0 = id_M\] であって、加えて次のような、群の作用性

が満たされている \(F_t(x) = F(t,x)\) のことを \(M\) 上の フロー という.

ベクトル場

多様体 \(M\) の上のベクトル場とは点 \(x \in M\) にベクトルを与えるものである. すなわちベクトル場 \(X\) とは \[X : M \to TM\] \[X : x \mapsto (u \in T_xM)\] なる写像のこと.

アイソトピーを生成するベクトル場

アイソトピー \(F_t\) からベクトル場 \(X_t\) を導くことが出来る. 流れとしては逆だけど「ベクトル場 アイソトピーを生成する」と表現する. また以下の議論はフローについても全く同様に出来、従ってフローからベクトル場を導くことが出来る.

アイソトピー \(F_t\) についてある基点 \[F(t_0, x_0) = y_0\] を1つ定める.

直感的には下図のようである. 即ち、基点から \(t\) だけをほんの少し動かすと、\(F\) の先もほんの少し動く (\(y_1\) とする). \(M\) の上で正にベクトル \(\vec{y_0~y_1}\) が作られたことに成る. これを各点 \(x\) について用いれば (\(t_0\) は固定して)、\(M\) の上のあらゆるところでベクトルが作られ、従ってベクトル場が出来る.

%3 x0 t_0, x_0 y0 y_0 x0->y0 F y1 y_1 y0:se->y1:ne x1 t_1, x_0 x1->y1 F

形式的には次のように書ける. 今 \(x=x_0\) を固定し、\(t\) を動かすとき、これは軌道 (曲線) \[y(t) = F(t, x_0)\] を描く.

これは \(y_0\) を通る曲線であるので、 \(y_0\) の上のベクトル \[\frac{d}{dt} y(t) = \frac{d}{dt} F(t, x_0)\] と見なせる.

\(t \mapsto (x \in M)\) な関数 \(g\) に対して \(\frac{d}{dt}g(t)\)\(M\) の上のベクトルを指す. この \(\frac{d}{dt}\) は実関数の (偏) 微分のことではない. 4章 の内容であるが、 これは \(\frac{d}{dt} (\phi \circ g)(t)\) の値 (これは微分値) によって同一視して出来る多様体の上のベクトルのことである. なので \(g\)\(g(t, x)\) といった多変数関数であっても \(\frac{\partial}{\partial t}g\) ではなく \(\frac{d}{dt}g\) と書く.

ベクトル場としては、\(M\) の上の点 \(y\) を与えた時に \(y\) を通るベクトルを返す関数である必要がある. そこで \(x_0 = F_{t_0}^{-1}(y_0)\) を前に挟む必要がある. \[X_{t_0}(y) = \frac{dF}{dt} (t_0, F_{t_0}^{-1}(y))\] すなわち、 \[X_{t_0} = \frac{dF}{dt} (t_0) \circ F_{t_0}^{-1}.\]

紛らわしいが次のように書くこともある: \[X_{t} = \frac{dF_t}{dt} \circ F_{t}^{-1}.\]

展開

次を使う.

復習

\(m\) 次元多様体 \(M\) の上の曲線 \(\gamma : [0,1] \to M\) を局所座標を用いて成分表示をする. すなわち、 \[f = \phi \circ \gamma\] \[f_i = \phi_i \circ \gamma ~~(i=1,2,\ldots,m)\] ここで \(f_i\)\(\mathbb{R}^m \to \mathbb{R}\) なる実関数に過ぎないことに註意. これを用いて、\(\gamma\) が表現するベクトルは

\[\left[\gamma\right] = \sum_{i=1}^m \frac{df_i}{dt}(t_0) \frac{\partial}{\partial x_i}\]

\(X_t\) にこれを適用する. \[f(t, y) = (\phi \circ F_t \circ F_{t_0}^{-1})(y)\] と置くとき、 \[X_{t_0} = \sum_i \frac{d f_i(t, y)}{dt}(t_0) \frac{\partial}{\partial x_i}.\]

ただし、\(y \in M\) を引数にするよりも、その局所座標 \(y_1, y_2, \ldots, y_m\) を引数にする方が便利かもしれない. だって上の \(f_i\)\([0,1] \times M \to \mathbb{R}\) であって陽に書けず、微分の計算をするときに想像力が必要となるから.

そのときは \[f(t, y_1, \ldots, y_m) = (\phi \circ F_t \circ F_{t_0}^{-1} \circ \psi^{-1})(y_1, \ldots, y_m)\] に対して \[X_{t_0} = \sum_i \frac{d f_i(t, y_1, \ldots, y_m)}{dt}(t_0) \frac{\partial}{\partial x_i}.\] と出来る.

局所座標でいきなり書く (或いはユークリッド空間の上の多様体を考える). \[F_t : \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2\] \[F_t(x, y) = (e^t x, e^{-t}y)\] が導くベクトル場がどんなものか考える.

  1. \(f = \varphi \circ F_t \circ F_{t_0}^{-1} \circ \varphi^{-1} = (e^{t - t_0} x, e^{t_0 - t}y)\).
  2. \(X_{t_0} = \left( e^{t - t_0}(t_0) ~ x, e^{t_0 - t}(t_0) ~ y \right) = (x, y)\).

ベクトル場 \(X_{t_0}\) を求めた時点でパラメータ \(t_0\) を改めて \(t\) と置いて \(X_t\) などと書くが、 この例では \(X_t = (x, y)\) となって \(t\) に依存しない形に偶然なった.

フローの時刻非依存性

上の議論から、フロー \(F_t\) からベクトル場 \(X_t\) を導くこともできるのだが、重要な性質として、 フローを生成するようなベクトル場 \(X_t\)\(t\) に依存しない.

証明

フローの性質から \[F_t(x_0) = F_{t - t_0}(F_{t_0}(x_0))\] \[\iff F(t, x_0) = F(t - t_0, F_{t_0}(x_0)).\] 両辺を \(t\) についての軌道と見做し \(t=t_0\) の時のベクトルを取る. \[\frac{dF}{dt}(t_0, x_0) = \frac{dF}{dt}(0, F_{t_0}(x_0)).\] ここで、\(F_{t_0}(x_0) = y_0 \iff x_0 = F_{t_0}^{-1}(y_0)\) と置けば、 \[\frac{dF}{dt}(t_0, F_{t_0}^{-1}(y_0)) = \frac{dF}{dt}(0, y_0)\] を得る. 更に更に \(F_0\) が恒等写像であることを思い出して、 \[\frac{dF}{dt}(t_0, F_{t_0}^{-1}(y_0)) = \frac{dF}{dt}(0, F_0^{-1}(y_0)).\] ここで \(dF/dt=X_t \circ F\) のあの式を適用すると \[X_{t_0}(y_0) = X_0(y_0)\] を得る. \(y_0\)\(t_0\) と独立に決められるので一般に \[X_{t_0} = X_0\] となる. \(t_0\) も自由に決められるので、結局、ベクトル場 \(X_t\)\(t\) に依存しない形になっている.

フロー \[F_t : \mathbb{R} \to \mathbb{R}\] \[F_t(x) = x + t\] が導くベクトル場を考える. \(F_t\) の成分を与える実関数は

局所座標としてはそのまんまの座標を与えた. \(\frac{\partial f}{\partial t}(t, x) = 1\) から \(X_{t_0}(x) = 1 \cdot \frac{\partial}{\partial x}\). 確かに \(t\) に依存しない.

フロー \[F_t : \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2\] \[F_t(x, y) = (x \cdot \exp(t), y \cdot \exp(t))\]

\(t=t_0\) の時の微分値を成分にするので、結局 \[X_{t_0} = x \frac{\partial}{\partial x} + y \frac{\partial}{\partial y}\] となる. やはり確かに \(X_t\)\(t\) に依存しない.

フローの軌道

多様体 \(M\) 上のフロー \(F_t\) と、ある点 \(x \in M\) について \[\{ F_t(x) : t \in \mathbb{R} \}\] を、\(x\) を通る軌道 (orbit) という.

定理

多様体 \(M\) のフロー \(F_t\) 及び点 \(x \in M\) について、 \(F_t(x)\)\(t\) についての定値関数ではないとする. つまり \(x\) を通る軌道が点ではないとする. ある \(T (>0)\) が存在して次が成立する. 異なる2時刻 \(t_1, t_2\)\[F_{t_1}(x) = F_{t_2}(x)\] が成り立つならば \[\exists n \in \mathbb{N}, |t_1 - t_2| = nT.\]

つまり、軌道がある一点 \(F_t(x)\) を複数回通るならば、周期 \(T\) で何度もその点を通っている.

証明

その点を通る時刻について考える. ただその前に \[F_{t_1}(x) = F_{t_2}(x)\] について、\(F_{ - t_1}\) を掛ければ \[x = F_0(x) = F_{t_2 - t_1}(x)\] となるので、「軌道が点 \(F_t(x)\) を通る」とか言わずに「点 \(x\) を何度も通る」という状態を考えればいい.

軌道が \(x\) を通る時刻の集合 \[A = \{ t : F_t(x) = x \}\] を考える. これは実は群になっていて、

こんな感じ. 加えて \(A\) は閉集合である. そのことを示すために前に この記事 で書いたことを使う. つまり、

\(A\) の元からなる一様収束する列の収束値が常に \(A\) に属するとき、\(A\) は閉集合

これを使う. 今の場合これは自明で、収束する列 \(\{a_i \in A\}\) の収束値を \(a = \lim a_i\) とすると、 \(F_a(x) = \lim F_{a_i}(x) = \lim x = x\) より、\(a \in A\).

というわけで \(A\)\(\mathbb{R}\) の閉部分群.

\[T = \inf \{a \in A : a > 0 \}\]

ベクトル場からフローの導出

先程はアイソトピーからベクトル場を導いた. 従ってフローからベクトル場を導くこともできる. ここでは逆に、一定の条件下でベクトル場 \(X_t\) からフロー \(F_t\) を導けることを言う.

言ってしまえばこれは \(F(t_0, x) = x\) の初期条件下で \(\frac{d}{dt} F(t, x) = X_t(t, F(t, x))\) という微分方程式の解 \(F\) を求めることに他ならない

存在と一意性

一定の条件下で解 \(F\) は存在して一意である.

開区間 \((a,b) \subset \mathbb{R}\)\(\mathbb{R}^n\) の中の開集合 \(U\) に関する有界連続関数 \[X : (a,b) \times U \to \mathbb{R}^n\] があって \(X(t, x)\)\(x\) に関してリプシッツ連続だとする. すなわち \[\exists L>0, \forall t,x_1,x_2, \|X(t,x_1)-X(t,x_2)\| < L \|x_1-x_2\|\] だとする. このとき、 適当な十分小さい \(\epsilon\) があって \[F: (t - \epsilon, t + \epsilon) \times K \to U\] であって

なるものが存在する. ただし \(K\) は任意の \(U\) の部分コンパクト集合. (\(\forall K, \exists \epsilon, \exists F\).)

証明は略. 微分方程式を頑張って解くだけ.

導出

実際に導く過程は、フローからベクトル場を導いた過程の逆をするだけ.

ベクトル場 \(X_t : M \to M\) について、これを \[X_t(x) = \sum_i \xi_i(t, x) \frac{\partial}{\partial x_i}\] という成分表示する.

求めたいフロー \(F_t\) について、適当な局所座標で挟んで \[\left(\psi \circ F_t \circ F_{t_0}^{-1} \circ \phi^{-1}\right) = f(t, x) = \left[ \begin{array}{c} f_1(t, x) \\ \vdots \\ f_m(t, x) \\ \end{array} \right]\] とする. \(f_i\)\([0, 1] \times \mathbb{R}^m \to \mathbb{R}\) という実関数である.

このとき、 \[\frac{\partial}{\partial t} f_i(t, \xi_i(t, x)) = \xi_i(t, x)\] ただし初期条件 \(f_{t_0}^i(x) = x\) の下で解いて更に \(f_i\) から \(F_t\) を求める.

割と気合だけど、 一意性だけは保証されているので、頑張って1つ見つければよい.

例題として、\(\mathbb{R}\) の上のベクトル場 \[X_t(x) = \frac{\partial}{\partial x}\] を考える.

\(X_t\) を成分表示すると \(\xi(t, x) = 1\) なる定数関数なので \(\frac{\partial}{\partial t} f(t, \xi(t, x)) = \frac{\partial}{\partial t} f(t, x)\). 従って \(f(xt, ) = t + C\) (積分定数). 初期条件より \(f(t, x) = t - t_0 + x\). \(F_t(x) = t + x\) とすると (天啓)、 \(F_t(F_{t_0}^{-1}(x)) = F_t(- t_0 + x) = t - t_0 + x = f(t, x)\) と合ってるのでこれが解.

(出来ない) 例

あくまでも一定の条件下でしかフローは導けない. 次は出来ない例. \[X_t(x) = x^2 \frac{\partial}{\partial x}\]

成分表示をして \[\xi(t, x) = x^2.\]

\(\frac{\partial}{\partial t} f(t, \xi(t, x)) = \xi(t, x)\) すなわち \(\frac{\partial}{\partial t} f(t, x^2) = x^2\) の解は実は \[f(t, x) = \frac{x}{1 - xt} + C\] である.

これを用いてフロー \(F_t(x)\) を探したいが、 それよりも \(f\)\(t=1/x\) の時に定義されてないのでダメ.