Tue Aug 6 17:40:34 JST 2013

少女はふらふらしていた.
あまりにふらふらしていたので,もう何度も電柱やら郵便ポストやらに
ぶつかってしまった.自分で頭は冴えてるつもりなので,ぶつかった
回数だってはっきり覚えている.電柱には8回,郵便ポストには13回だ.
少女はこんなに郵便ポストが町に立っていることを知らなかった.
これなら家でゆっくり横になってれば良かったのに,と思うのだが,
実際少女は家のソファで目をつぶってじっとしていたはずなのに
あんまり頭がふらふらしていた結果,こんな町中まで出てきたのだった.

私がその少女に出会ったのは古本屋の中であった.私はその日,
絶対法律に触れてると確信するような早朝からの借金の取り立てに
逃げて,朝早くから開いているこの古本屋に入って店が閉まるまで
過ごすつもりでいたのだった. 初め,私はてっきり,酔っ払いが
いるかと思った.ふらふら歩いて,棚にぶつかったり,人にぶつかったり
しては,その度にごめんなさいごめんなさいと謝っていた.
顔を覗きこんでみたけれど少女はお酒を飲んでるわけでないらしかった.
少女は私の顔をちゃんと見てるのか見てないのかよく分からない顔で
私の方をじっと見,こちらが恥ずかしくなるほどだった.

痒いところはありますか?と聞かれて,どうしてそんなこと聞かれてる
のか,とも思いながら,痒いところがどこかあるか頭から足の先まで
思い浮かべてみたけれど,特にありません,と少女は答えることにした.
なにやら頭をもぞもぞ触られていると,じっとしてください,と
カリスマ美容師は言った.少女は,じっとしていますよ,と当然のように
答えた.鏡で自分の顔を見た.随分とぐらぐらしていた.これは怒られても
仕方がないわね,と思った.頬にヌルい感触があった.カリスマ美容師は
言った.「ほら,動くから.耳を切っちゃったわよ」彼女は自分の千切れた
耳を受け取った.右が痛むので右耳なんだろう.でも受け渡された耳を
単体で見ても右耳か左耳かすぐには分からないものなんだな,と面白くなって
ちょっと笑った.「あなたが動くからなんだからね.怒らないでよね」と
美容師は言った.結局,少女が美容院出る時には両耳を手に持って出た.

同じ日の夜,私はまた先の少女に出会った.
先程は7階だったけど今回は3階の科学コーナーだ.少女は服の肩の方が
赤く染まってた.少女の目はさっきより一段とヤバかった.ふらふらの方にも
一段と磨きがかかっていて,目をつぶって歩いてるのかと思った.立ち読み
している私の後ろを通り過ぎようとして,私の足に引っ掛けて少女は勝手に転んだ.
転んだ拍子に床に2つ,耳を落とした.その時ようやく,彼女に耳がついて
いないことに気がついた.少女はやはり私にごめんなさいごめんなさいと謝った.
私は思わず少女の手を掴んで,その耳を私にくれと頼み込んだ.
酔い止めの薬とタバコをお礼のつもりで彼女に渡して,2つの耳を手に入れた.
これでようやく,あの借金取りに帰ってもらえる.