2021-11-14 (Sun.)
清水勇二による「圏と加群」の p.146 あたりの話. 初版第一刷を読んでるが, 記号の誤りが激しく読解しづらい. 後述するように実は直積と直和が同値な圏の話をしているのでその辺でごっちゃになっているのだろうが, 記号が突然変わるのはやめて頂きたい.
また nLab の次のページでカバーされている.
圏の始対象のことを \(0\) と書く. 圏の終対象のことを \(1\) と書く. また恒等射のことも対象を明記せずに単に \(1\) と書く.
対象の \(X,Y\) の直積を \(X \times Y\) , 直和を \(X \sqcup Y\) と書く. 直積は自然に射影を伴うがこれを \(\pi_1, \pi_2\) と書く. 同様に直和は入射を伴ってこれを \(\iota_1, \iota_2\) と書く. また, それぞれは射 \(f,g\) から自然に \(f \times g\) , \(f \sqcup g\) を導くが, これらは次のことを言う.
ここで登場する群はすべて加法に関する群で, 演算を \(+\) , 単位元を \(0\) とする. 射の合成は普通に \(f \circ g\) などとも書くが, 乗算のように \(fg\) のようにも略記する.
\(\def\C{\mathcal C}\)
必要になるのは少し後だが先にやっておく.
直積及び直和が存在する圏において, \(X = X = X\) という図式を \(X \times X\) 及び \(X \sqcup X\) の普遍性に当てはめるだけで次のような2つの射が作れる.
各対象 \(X\) について, 次の射が存在する:
圏 \(\C\) の各 Homset \(\C(X,Y)\) が Abel 群になっている. さらに射の合成がこの群に関する準同型になっているとする. つまり,
が成り立っている. 次は自然に導かれる.
以上が成り立つとき, \(\C\) を 前加法圏 という.
対象が唯一 \(\ast\) しかない前加法圏は環である. つまり \(M = \C(\ast, \ast)\) は \(+\) に関する Abel 群で, 合成 \(m \colon M \times M \to M\) は \(\times\) に関するモノイドになっている.
前加法圏 \(\C\) が
この2つを満たすとき, これを 加法圏 という.
前加法圏 \(\C\) が,
を持つとき \(\C\) は加法圏である.
\(X \times Y \simeq X \sqcup Y\) が成り立つことを示す. すなわち, 適切な入射 \(\iota\) を以て \(X \times Y\) が確かに直和であることを確認する.
このことが既に示されたとき, 終対象 \(1\) については \(1 \simeq 1 \times 1 \simeq 1 \sqcup 1 \simeq 0\) となってこれが始対象であり, ゼロ対象である.
さて, 直積があることから \(X_1 \times X_2\) に対してその射影
ここで入射のようなもの(実は入射そのものになっている)を次のとおりに定める.
ここで \(\iota_1\) の右辺に登場する \(1\) は \(X_1 \to X_1\) なる恒等射のことで, \(0\) は群 \(\C(X_1, X_2)\) の単位元であることに注意.
\(\pi_1, \pi_2\) 及び上記で作った \(\iota_1, \iota_2\) について確認しておくべき性質は次の5つ.
最初の4つについては, クロネッカーのデルタを使って,
\[\pi_i \iota_j = \delta_{i,j}\]なんて書くこともできる. さて \(\iota_j\) の定義を入れれば,
\[\pi_1 (f \times g) \Delta = f\]を一般に示せれば4つすべて示せたことになる. これには \(f \times g\) の作り方を思い出せば良くて, そのために「記法」の章に載せた図式をぐっと睨むと,
\[\pi_1 (f \times g) = f \pi_1\]が得られる. これを代入して,
\[\pi_1 (f \times g) \Delta = f \pi_1 \Delta = f 1 = f\]\(\pi_1 \Delta=1\) も「対角射と余対角射」の章に書いたように \(\Delta\) の定義から明らか.
5つ目については左辺から \(\pi_1, \pi_2\) を掛けると,
これで実は \((X_1 \times X_2, \iota_1, \iota_2)\) が \(X_1, X_2\) の直和になっていることを見ていく. 直和の定義は下を可換にするような射 \(!\) が存在して, そしてそれが唯一であることだった.
\(\iota_1 \pi_1 + \iota_2 \pi_2 = 1\) という等式があったが, これの \(\iota\) を \(u\) に取り替えて得られる射
\[! = u_1 \pi_1 + u_2 \pi_2\]これがそのような唯一射になる.
以上から, 終対象と直積だけあれば加法圏であるし, しかも直積と直和(終対象と始対象)が同型であることがわかった.
逆に加法圏は直和の存在だけが定義として要請されているが, 先程の議論を全く同様に適用することで, 始対象と直和だけがあれば終対象と直積を持つ加法圏であって, しかも直積と直和(終対象と始対象)が同型であることが分かる.
双対を取るだけなので自明だが, 入射 \(\iota\) に対して
とすればこれが直積への射影となっていることが確認できる.
\(X \times X \simeq X \sqcup X\) の射影及び入射について,
この記事の加法圏の定義ではそもそも陽には直積がなく, 従って \(\Delta\) と \(\pi\) が無いわけだが, その場合は (d1) 自体が \(\Delta\) の定義であり, 前章で作った \(\pi\) について (d2) が成立する. 前加法圏が直積を持つ場合には, 前々章で作った \(\iota\) が (d1) を満たし, (d2) が \(\nabla\) の定義になる.
\(f, g \colon X \to Y\) について,
すべて簡単な式変形で確認できる. また (e2) は \(X \times Y \simeq X \sqcup Y\) と (e1) の \(f \times g = f \sqcup g\) という同一視を暗黙に使った等式になっている.