坪井 多様体 §3 - 多様体の定義

2017-02-12 (Sun.)

幾何学 微分幾何

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概要

前章 ではユークリッド空間上の \(p\) 次元多様体 (正確には部分多様体であるが) を定義した. その定義の本質は (大雑把には) 次のようなものである.

この本質だけを抽象化することで、ユークリッド空間以外の空間上の図形も多様体として定義できそうだ (よくわからない空間の上の図形なので、これは最早、絵に描けない).

\(n\) 次元 \(C^r\) 級微分可能多様体の定義

あるハウスドルフ空間 \(X\) の上の \(n\) 次元 \(C^r\) 級微分可能多様体 \(M\) とは次のようなもの.

  1. 近傍座標系 \(\{ (U_i, \phi_i) \}_{i \in I}\)
  2. \(M = \bigcup_i U_i\)
  3. \(\gamma_{i,j} := \phi_i \circ \phi_j^{-1}\)\(C^r\) 級である

3つ目について.

註意スべきこととして、 ここでは面倒なので省略して書いているが、 厳密には、\(\gamma_{i,j}\) の定義域が\(\phi_j(U_i \cap U_j)\) になるように、 制限を与えて定義する必要がある. だから例えば、 \(U_i \cap U_j = \emptyset\) については \(\gamma_{i,j}\) は空写像となって、常に \(C^\infty\) 級. \(\ne \emptyset\) の場合も、その中に入ってる点 \(x\) に関してだけ、\(C^\infty\) 級であればよい.

滑らかさを、ユークリッド空間のときと同様に、微分可能であることで与えたいのだが、 関数の微分という操作は、普通、ユークリッド空間上でしか知らないので、 なんとかして、定義域も値域もユークリッド空間であるような写像を考えるために \(\gamma_{i,j}\) なるものを考えている.

前章で定義した、ユークリッド空間上の部分多様体は、\(C^\infty\) 級の微分可能多様体である.

例. \(S^n\)

超球面 (球面、円周) とは

\[S^n = \{ x \in \mathbb{R}^{n+1} : \|x\| = 1 \}\]

である. これは簡単に、\(n\) 次元多様体であることが分かる.

多様体であることを示すには定義と照らしあわせて次を確認すれば良い.

  1. ハウスドルフ空間であること
  2. 被覆になってる近傍座標系を実際に見つける
  3. それを合成した \(\gamma_{i,j}\)\(C^s\) 級であること

\(S^n\) の場合は次のようにすればよい.

  1. まず、ユークリッド空間の部分空間なのでハウスドルフ空間なのは自明.

  2. \((x_1, x_2, \ldots, x_{n+1}) \in S^n\) について、\(S^n\) を次のような \(2(n+1)\) コの被覆に分ける:

明らかに \(\bigcup_i U_i^+ \cup U_i^- = S^n\) である.

\(\phi_i\) は次のようにする.

右辺は \(n+1\) 個の数と、元の \(x_i\) に関する符号を添えたものであるが、 \(n+1\) 個の数の内の一個は定数 \(1\) なので実質的に \(n\) 次元ユークリッド空間と見なせる (同型).

  1. \(x \in U_i^\sigma \cap U_j^\tau\) \((\sigma, \tau \in \{+,-\})\) について、 \(x = (x_1, x_2, \ldots, (x_i \ne 0), \ldots, (x_j \ne 0), \ldots, x_n)\)

\[\begin{align} \phi_i(x) & = [x_1/x_i, x_2/x_i, \ldots, 1, \ldots, (x_j/x_i \ne 0), \ldots, x_n/x_i; \sigma] \\ & = [q_1, q_2, \ldots, (q_i=1), \ldots, q_j, \ldots, q_n; \sigma] \\ \phi_j(x) & = [x_1/x_j, x_2/x_j, \ldots, (x_i/x_j \ne 0), \ldots, 1, \ldots, x_n/x_j; \sigma] \\ & = [r_1, r_2, \ldots, r_i, \ldots, (r_j=1), \ldots, r_n; \tau] \\ \end{align}\]

\(\phi_j(x)\)\(\phi_i(x)\) に写す \(\gamma_{i,j}\) を考える.

\[q_k = x_k/x_i = \frac{x_k/x_j}{x_i/x_j} = \pm r_k/r_i\]

であることに気付けば \[\gamma_{i,j}(r) = \pm r / r_k\]

と分かる. ただしこの符号は \(\sigma = \tau\) かどうかで定まる. これは \(C^\infty\) 級写像.

例. \(S^n/\sim\)

商空間を取る場合、多様体は非自明になる. 特に、ハウスドルフ空間であるかどうかが、一般には自明でなくなる.

今、\(x \in \mathbb{R}^n\) について \(x \sim -x\) という同値関係で \(S^n\) を割って出来る図形 \(S^n/\sim\) が多様体であるかどうか考える. 結論を述べるとこれは \(n\) 次元多様体である.

近傍座標系は \(S^n\) の場合と全く同様であるが、こちらは符号を最早気にする必要がないので、 先程よりも話は簡単で、

とすればよい.

問題はこれがハウスドルフ空間かどうかである. 二通りの示し方を紹介する.

実関数で分離する方法

位相空間 \(M\) がハウスドルフ空間であることを示したい. それはすなわち、任意の \(x_1, x_2 \in M (x_1 \ne x_2)\) について、 2つの近傍 \(V_1 (\ni x_1), V_2 (\ni x_2)\) があって \(V_1 \cap V_2 = \emptyset\) となればよいのであった.

ある連続な実関数

であって、

なるものがあるとする. このとき、次の2つの開集合を構成できる. (N.B. 開集合を連続関数で引き戻した先も開集合)

このとき、どっちがどっちかは分からないが、 \(x_1, x_2\)\(U_1, U_2\) のそれぞれどちらかに入っている. そして明らかに \(U_1 \cap U_2 = \emptyset\) なので、\(X\) はハウスドルフ空間.

\(S^n/\sim\) の場合だが、偏角を使えばいい. つまり、適当な点 \(x_0\) を用いて \(f(x) = \frac{\|x \cdot x_0\|}{\|x\| \|x_0\|}\) とすればよい.

有限変換群による商空間

有限変換群 \(F = \{f_1,f_2,\ldots,f_n\}\) の位相空間 \(X\) への (左) 作用を考える. このときに、 \(x_1,x_2 \in X\) について \[x_1 \sim x_2 \iff \exists f \in F, f(x_1) = x_2\]

という同値関係を定める. この同値関係による \(X\) の商空間を \(X/F\) と書く.

結論を述べると、 ハウスドルフ空間を有限変換群で割って出来る商空間はハウスドルフ空間である.

\(S^n/\sim\) の場合、 \(F = \{1, -1\}\) という群で割ったものだと考えれば、これが適用できる.

証明

ハウスドルフ空間 \(X\) と有限変換群 \(F = \{f_1,f_2,\ldots,f_n\}\)

\(i=1,2,\ldots,n\) に対して 2点 \(x, f_i(y)\)\(X\) 上で (Hausdorff 的に) 分離する2つの開集合 \(U_i, V_i\) が (\(X\) がハウスドルフ空間と仮定したので) 存在する.

これら \(n\) 個の開集合の積を取って (\(y\) に関しては \(f_i(y)\) のだから、一回戻してから積を取って)

  1. \(x \in U = \bigcap_i U_i\)
  2. \(y \in V = \bigcap_i f_i^{-1}(V_i)\)

が、\([x], [y]\) を分離しそうな気がする.

まず \(X\)\(X/F\) に写す写像を \(p\) とする. だから \(p(U), p(V)\)\([x], [y]\) を分離するかどうか. それぞれに \([x], [y]\) が入るのは自明だから、 \(p(U) \cap p(V) = \emptyset\) を示せればいい.

結論から逆に辿ると、

\[\begin{align} & p(U) \cap p(V) = \emptyset \\ \iff & p^{-1} (p(U) \cap p(V)) = \emptyset \\ \iff & p^{-1} \circ p(U) \cap p^{-1} \circ p(V) = \emptyset \\ \iff & \bigcup_i f_i(U) \cap \bigcup_j f_j(V) = \emptyset \\ \Leftarrow & f^{-1} (f_i(U) \cap f_j(V)) = \emptyset \\ \iff & U \cap f_i^{-1}(f_j(V)) = \emptyset \\ \iff & U \cap f_k(V) = \emptyset ~~(\exists k)\\ \Leftarrow & U \cap f_k(V) \subseteq U_k \cap V_k = \emptyset \end{align}\]

から示された.

座標変換

近傍 \(U_i\) に対して \(\phi_i\)\(U_i\) の座標である. \(\gamma_{ij} : \phi_j(U_i \cap U_j) \to \phi_i(U_i \cap U_j)\) はある座標から別な座標に写すものだから、これを座標変換という.

コサイクル条件

について

が成立することを コサイクル条件 という.

座標変換 \(\gamma_{ij}\) は関数合成に関してコサイクル条件を満たす.

貼り合わせによる多様体の定義

近傍座標系の代わりにコサイクル条件を満たす座標変換によって表現し直すことが出来る. 即ち、 \(U_i \subseteq \mathbb{R}^n\)\(x \sim y \iff \gamma_{ij}(x) = y\) によって貼りあわせた

\[M = \coprod_i U_i / \sim\]

を多様体とする定義もある. ただし \(M\) がハウスドルフ空間であること要請する.

ファイバー束

大雑把に述べると、 図形 \(E\) がファイバー束であるとは、局所的に \(B \times F\) と同相であることである.

厳密には以下のようである.

\(E\)\(F\) をファイバーに持つファイバー束であるとは、

  1. 位相空間 \(E, F, B\)
  2. 連続写像 \(p: E \to B\)
  3. \(\forall b \in B, \exists U_b \subseteq B, p^{-1}(U_b) \simeq U_b \times F\) (同相)

とあること.

\(B, F\) から \(E\) を組み立てると、ファイバー束が何かが分かりやすい. 例えば、

円周 \(B\) に幅 \(F\) をもたせたものである.

これは所謂「帯」である. 帯の軸が \(B\) で、その幅が \(F\). この幅の部分は全体としては捻れていても構わない. つまり \(E\) がちょうどメビウスの輪であっても、(\(B\) に関して) 局所的には帯と変わらない.

性質

\(B, F\) がハウスドルフ空間であるとき、\(E\) もハウスドルフ空間である.

\(E\) における異なる二点は \(p\) によって異なる点に写るか同じ一点 \(b\) に写る. 異なる二点に写るならば \(U_b \times F\) でも明らかに異なる二点だからok. 同じ一点に写っても \(F\) がハウスドルフ空間だから \(U_b \times F\) において異なる開集合に含ませることができる.

向き付け

ある多様体 \(M\) が向き付け可能であるとは、全ての座標変換 \(\gamma_{ij}\) のヤコビアンが正とできること.

命題

向き付け不能であることを示すのに有用な命題がある.

多様体 \(M\) から下のようにして \(\hat{M}\) を構成する. \(\hat{M}\) がただ一つに連結なとき、向き付け不能である. 向き付け可能な場合は連結成分がちょうど2つになる.

構成方法を述べる. \(M\) のある近傍座標系 \(\{(U_i, \phi_i)\}_{i \in I}\) 、及びそこから導かれる \(\{\gamma_{ij}\}\) を取る.

\(\hat{M}\) の 近傍系を \(\{U_i^+\}_{i \in I} \cap \{U_i^-\}_{i \in I}\) とする. すなわち、元の図形を2つにコピーした形になっている.