胸元にリボンのついた服の少女
国語の授業中,友達に大学入学試験の国語の,自分なりの
解き方を教えていたら教師に話しかけられて恥ずかしくなって
教室を飛び出した.
親にもらった,刀筆
夏休み,どうするの?自分の家に戻って(一人暮らしをしている)
ただのんびり過ごす
という家についた
歯ブラシがあんまり古いので捨てて新しいのを出した.
新しいモノというのは大抵良い運気をもたらすのだ.それは単に,
「新しいものを使うのがテンションが上がる」という程度のこと
なんだけれど.
刀筆と歯ブラシ,どっちがより良い運気を私にくれるか,試して
みるの,と先輩
同時に変えるんじゃ,どっちの効果か分からないじゃないですか
先輩は今日もまたあの赤いリボンが胸元にあしらわれた服を着ていた.
私が先輩に国語を教えていて,なんだか変な気分になった.先輩は
私よりずっと若い見た目をしていて(若さというのは実年齢だけで
測るものではない),当時大学二年生だった私と同じ大学に入ろうと
未だに予備校に通っていた.その日は,夏休みということで,
同じ母校である高校に遊びに来ていた.遊びにとは言っても,先輩は
受験生である.職員室に偶然いらした担当科目国語,私の副担任で
何度か迷惑もかけた恩師に,大学の過去の入試をコピーしてもらい,
私が先輩の教師役となった.教室を使わせてもらう間,恩師は教壇の
ところにおり,恩師の目の前でわたしが先生を演じるので気恥ずかしい
思いもした.私が役に立たないような抽象的なアドバイスをひと通り
終えると,先輩は親に最近もらったという刀筆を私に見せ,墨をつけて
何やら書き始めた.
この夏休み,どうするつもりなのかと聞くと,家に帰って,ただのんびり
するという.家というのは,彼女が一人で暮らす下宿みたいなアパート
の一部屋のことである.先輩の両親は今どうしてるのだっけ.ここからそう
遠くないどころか,本当に歩いて10分程度のところにあるので私もお邪魔
することにした.「ここに帰るのはいつぶりですか」3ヶ月ぶりだと少女は
答えた.彼女はまっさきに洗面台に向かい,鏡の前に立てられた,毛の
開いた歯ブラシをゴミ箱に入れた.「私ね,新しいモノを使うっていうのは,
新鮮な運気を呼び込むことだと思うの」彼女は言い始めた.「新しい筆と,
新しい歯ブラシを使うことできっといいことがあるわ」私は素直に頷いた.
「新しい筆と,新しい歯ブラシ,どちらの方が良い運をもたらすかしら,実験ね」
「そんな,運がどこから来たのかなんて区別できるんですか」
と私は答えた.