\(\def\slice#1#2{#1/\!#2}\def\ker#1{\mathop{\mathrm{Ker}}{#1}}\)
集合 \(A\) があるとき, この上に同値関係 \(\sim\) を入れる. このとき 商集合 \(\slice A \sim\) なる集合が次の通り定めることができる.
\[\slice A \sim ~ = \{ [a] \mid a \in A \}\] \[\text{ where } a \sim a' ~( \in A) \iff [a] = [a'] ~ (\in \slice A \sim)\]
\(\slice A \sim\) でのイコールの意味を \(\sim\) が与えている. ここで \(a \in A\) と区別する意味で \([a]\) と書いてこれを新しく作った集合の元としているが, \([~]\) 自体を写像だと思える.
\[[~] \colon A \to \slice A \sim\] \[a \mapsto [a]\]
しかも商集合の作り方から当たり前であるが, 全射になっている. つまり,
この \([~]\) のことをよく 標準全射 とか自然射影とかそれらしい名前で呼ぶ. 当たり前に出来上がるものなので決まりきった名前はないようだ.
今見たのは「同値関係があると商集合なる集合を定めることが出来, 全射が作れた」という現象. 次はその逆に「全射があれば, 同値関係と商集合が作れる」という現象を見ていく.
集合 \(A\) がある. 適当な集合 \(X\) と, 全射 \(f \colon X \to A\) があるとき, このペア \((X, f)\) のことを, 或いは単に \(X\) のことを \(A\) の 商対象 という.
\(A\) の上の同値関係 \(\sim\) を次の通り定義する: \[a \sim a' ~ (\in A) \iff f(a) = f(a') ~ (\in X)\]
\(f(a)\) のことを \([a]\) と書くことにすれば, \(X\) が先程の \(\slice A \sim\) と同値であることが見てわかる. もちろんその全射性から \(x \in X\) に対していつでも対応する \([a]\) があることによる.
群 \(G\) がある. また適当な群 \(X\) があって全射 \(f \colon G \to X\) があるとする. ただしここで全射と呼ぶのは準同型写像に限る. この \(X\) のことを(或いは \((X,f)\) のことを) \(G\) の 商群 または集合の場合と同様に商対象と呼ぶ.
やはり集合の場合と全く同様にして, \(G\) の上の同値関係を入れる: \[g \sim g' \iff f(g) = f(g').\] さてこの \(f(g)=f(g')\) であるが, 群であることと準同型写像であることから次のように言い換えられる.
準同型写像に対して核という概念があり, 今回は \(f\) に対して次のようなものを \(f\) の核といって \(\ker f\) と書く. \[\ker f = \{ g \in G \mid f(g) = 0 \} ~ (\subset G)\]
実はコレ自体が \(G\) の部分群になっている.
これを使うと, 先程の \(f(g-g')=0\) は \(g-g' \in \ker f\) と言える. 結局, \(G\) 上の同値関係が \[g \sim g' \iff g-g' \in \ker f\] で定義されている.
\(X\) のことを \(\slice G \sim\) とか \(\slice G \ker{f}\) とか書く.
全射を作ると, 同値関係や \(G\) の部分群なる群が作れて, それでもって商群が構成できた. 逆に部分群を与えても商群が作れることを次に見ていく.
普通はこちらを使う.
群 \(G\) がある. これの部分群 \(H \subset G\) があるとき, 商群 \(G/H\) を次のように定義する.
\[G/H = \{ g+H \mid g \in G \}\] ただしここで \(g+H\) とは \(\{g+h \mid h \in H \}\) である. また \(+\) とは群 \(G\) の上に定義されてる演算のこと.
\(G/H\) の上のイコールは各要素が集合なので集合的なイコールの意味. \[g+H = g'+H \iff \{g+h \mid h \in H\} =\{g'+h \mid h \in H\}\] 右辺の集合のイコールは「左から自由に取ってきたものが右にも入ってる」ということを確認すればよい. 「右から自由に取ってきたものが~」も示す必要が本当はあるが対称的なので省略する.
しかしながら群にはいつも逆元があってキャンセルできるので,
とすれば実は \(\forall\) は関係なくて単に
とできる. \(g'\) を左辺に移項すれば,
というわけで, 改めて \(G/H\) の上のイコールは次の通り: \[g+H = g'+H \iff g-g' \in H\]
さて, \(g \in G\) に対して \(g+H \in G/H\) を対応させる写像が集合のときの \([~]\) みたいなもんで, もちろん全射になっていて, \[\pi \colon G \to G/H\] \[\pi \colon g \mapsto g+H\] これのことをやっぱり標準全射などと呼ぶ.
この \(\pi\) の核を考えてみると, \[\ker \pi = \{ g \in G \mid g+H = 0+H \}\] \(g+H=0+H\) の部分についてだが, これは \(\iff (g-0) \in H \iff g \in H\) なので結局 \[\ker \pi = \{ g \in G \mid g \in H \}\] となって, \[\ker \pi = H ~ (\subset G)\] であることがわかる.
商対称と定義したものと次のように対応している.
商対象 | 商群 |
---|---|
全射 \(f\) | 標準全射 \(\pi\) |
核 \(\ker f\) | 部分群 \(H\) |
終域 \(X\) | 商群 \(G/H\) |
全射の先でイコール \(f(g)=f(g')\) | 同値関係 \((g-g')\in H\) |