Sat Nov 11 2023

回転, 三角関数, 円周率

モチベーション

  1. 定義が循環参照になってないこと
  2. 幾何的なイメージによらないこと
    • ましてや図形的な証明にならないこと
  3. 加法定理など基本的な定理が容易に導かれること

特に三番目に配慮すると, 初めから行列を使ってしまうのがてっとり早い. というわけで考えたのが次の順序(タイトルに書いたとおりだが).

  1. 回転という線形変換を定義する
    • 対称性もここに一緒に持たせる
  2. 基底を回転した先を表すものが三角関数であると定義する
  3. 180度回転を表すものが \(\pi\) だと定義する

notation

回転の定義

次の2つの群を考える.

  1. 角度空間 \(\Theta\)
    • 加法群 \(\Theta = (\mathbb R, +, 0)\) だとする
  2. 群 \((\mathcal R, \circ)\)
    • \(\mathcal R = \{ R_\theta \mid \theta \in \mathbb R \}\)
      • \(R_\theta\) は線形写像 \(\mathbb R^2 \to \mathbb R^2\)
      • \(R_\theta\) は後述する「単位回転に関する可換性」をすべて持っている
      • \(R_\theta\) は後述する「フリップが自己逆元 (self-inverse)」になっている
    • \(\circ\) は写像どうしの合成演算

\(R\) が \(\Theta\) から \(\mathcal R\) への準同型写像になっていることを要請する. すなわち,

単位回転

次の写像 \(r\) を 単位回転 と呼ぶことにする.

すべての \(R_\theta \in \mathcal R\) は単位回転に関する可換性を持つことを要請する. すなわち,

が成り立つ.

フリップ

次の写像 \(f\) を フリップ と呼ぶ

すべての \(R_\theta \in \mathcal R\) について次を満たすことを要請する.

自明ではあるがここで導入した \(r, f\) はともに線形写像である.

以上の要請

これらを満たす \(R\) のことを 回転 と呼ぶ.

三角関数の定義

\((1,0) \in \mathbb R^2\) が \(R_\theta\) で写る先を

\[\left[\begin{array}{c}\cos(\theta) \\ \sin(\theta)\end{array}\right]=R_\theta\left[\begin{array}{c}1 \\ 0\end{array}\right]\]

と定める.

回転の行列表示

回転 \(R_\theta\) は二次元空間から二次元空間への線形写像だと定めたので, \(2 \times 2\) の実行列表示が出来る. これは基底が写る先を調べることで分かる.

まず先程の定義から,

\[\left[\begin{array}{c}\cos(\theta) \\ \sin(\theta)\end{array}\right]=R_\theta\left[\begin{array}{c}1 \\ 0\end{array}\right].\]

ここに単位回転に関する可換性を使うことで,

\[r R_\theta\left[\begin{array}{c}1 \\ 0\end{array}\right] = R_\theta r \left[\begin{array}{c}1 \\ 0\end{array}\right]\]

なので,

\[\left[\begin{array}{c}-\sin(\theta) \\ \cos(\theta)\end{array}\right]=R_\theta\left[\begin{array}{c}0 \\ 1\end{array}\right].\]

以上から次の行列表示を得る.

\[R_\theta = \left[\begin{array}{cc}\cos(\theta) & -\sin(\theta) \\ \sin(\theta) & \cos(\theta)\end{array}\right]\]

円周率の定義

回転単位 \(r\) について, \(R_\theta = r\) を満たすような \(\theta\) の内の一つを \(\theta = \pi/2\) だと定める.

三角関数の基本的な性質

自然数 \(n\) について \(R_{2n\pi} = (R_{2\pi})^n = 1^n=1\) なのでこれは恒等写像. \(n\) を \(0\) 以下の整数に拡張してもこれは成り立つ(逆射). ここから次を得る.

フリップ \(f\) を用いて \(fR_\theta\) は \(fR_\theta = (fR_\theta)^{-1}\) を満たすのだった. したがって行列表示したときに \((fR_\theta)^2\) は単位行列になる.

\[fR_\theta = \left[\begin{array}{cc}-\cos(\theta) & \sin(\theta) \\ \sin(\theta) & \cos(\theta)\end{array}\right]\]

この2乗が単位行列と等しくなるために

\[\cos^2 \theta + \sin^2 \theta = 1\]

を得る.

また, \((f R_\theta)^{-1} = R_\theta^{-1} f^{-1}\) であるが, \(R_\theta^{-1} = R_{-\theta}, f^{-1} = f\) なのでこれを代入することで

\[(f R_\theta)^{-1} = \left[\begin{array}{cc}-\cos(-\theta) & -\sin(-\theta) \\ -\sin(-\theta) & \cos(-\theta)\end{array}\right]\]

これが \((fR_\theta)\) と一致することから

という偶奇性を得る.

加法定理

\(R\) の準同型から

であった. 両辺を行列表示することで次の定理を得る.