坪井 多様体 §8 - 多様体の上のベクトル場

2017-09-30 (Sat.)

数学 幾何学

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ベクトル場に沿う偏微分

多様体 \(M\) の上にフロー \(F_t: M \to M\) 及び、それを生成するようなベクトル場 \(X = \frac{dF_t}{dt} \circ F_t^{-1}\) があるとする.

\(M\) 上の実関数 \(f: M \to \mathbb{R}\) に就いて、 \(Xf\) を次で定義する.

\(X(x)\) はベクトルなので一般に \[X(x) = \sum_i \xi_i(x) \frac{\partial}{\partial x_i}\] と書ける. これに対して \[Xf(x) := \sum_i \xi_i(x) \frac{\partial f}{\partial x_i}(x)\] と定める.

ここに出現する \(\frac{\partial f}{\partial x_i}\) は点を座標に移してから実数として微分するもので、 \(\frac{\partial (f \circ \varphi^{-1})}{\partial x_i}\) のことである. 個々の値は座標のとり方で変わるが、全体 (\(Xf\)) は変わらないことに註意.

定理

\(Xf\) に就いて、次が成立する.

\[\frac{d}{dt} f(F_t(x)) = Xf(F_t(x))\]

右辺に定義の式を代入することで確認する. \(y=F_t(x)\) とおくと、 \[\begin{align*} X(y) & = \left( \frac{dF_t}{dt} \circ F_t^{-1} \right) (y) \\ & = \frac{dF_t}{dt} \left( F_t^{-1}(y) \right) \\ & = \sum_i \left( \frac{dF_t}{dt} \left( F_t^{-1}(y) \right) \right)_{.i} \frac{\partial}{\partial y_i} \\ & = \sum_i \left( \frac{dF_t}{dt} (x) \right)_{.i} \frac{\partial}{\partial y_i} \end{align*}\] ここで \(\_.i\) はタプルの第 \(i\) 成分への射影関数.

とベクトルは表現されるので、これに対して \[\begin{align*} Xf(y) & = \sum_i \left( \frac{dF_t}{dt} (x) \right)_{.i} \frac{\partial f}{\partial y_i}(y) \\ & = \sum_i \left( \frac{d y_i}{dt} \right) \frac{\partial f}{\partial y_i}(y) \\ & = \frac{d f(y)}{dt} \\ & = \frac{d f(F_t(x))}{dt} \end{align*}\]

と確認できた. この定理を座標を決めない場合の \(Xf\) の定義とする.

問 8.1.2

コンパクト多様体の上のベクトル場 \(X\) と実関数 \(f\) について \(Xf=f\) が成り立っているとする.

まず、コンパクト性故 \(f(X) \subset \mathbb{R}\) もまたコンパクトであるが、 実空間のコンパクト部分集合は有界である. すなわち、最小元と最大元を持つ.

次に \(Xf=f\) について調べる. これもコンパクト性故 \(X\) によって生成されるフロー \(F_t\) が存在する. 点 \(x=F_t(y)\) について、 \[\begin{align*} f(F_t(y)) & = Xf(F_t(y)) \tag{仮定より} \\ & = \frac{d}{dt}f(F_t(y)) \tag{定理} \end{align*}\]

今、点 \(y\) を固定して \(f(F_t(y))\)\(t\) の関数 \(g(t)\) とみなせば、 \[g(t) = \frac{d}{dt}g(t)\] を得たことになる. この微分方程式を解けば \[g(t) = A \exp(t)\] ちなみに初期値は \(g(0)=f(F_0(y))=f(y)\). 以上から \[f(F_t(y)) = f(y) \exp(t)\] を得る. ところで \(t\)\(\mathbb{R}\) 全体を取り得るが、このままだと \(f(F_t(y))\) の取り得る値の範囲は \(f(y)>0\) なら \((0,\infty)\) となる. これは先程の \(f\) は最大元を持つという事実と反する. 同様に最小限を持つ事実も考慮すると、結局 \(f(y)=0\) である必要があり、 \[f(F_t(y)) = 0\] が言える.

任意の \(y\) について同じことが言えるので結局 \[f(x)=0\] が言える.

フローとベクトル場

普通の偏微分 \(\frac{\partial}{\partial x_i}\), \(\frac{\partial}{\partial x_j}\) は可換で、 \(\frac{\partial^2 f}{\partial x_i \partial x_j} = \frac{\partial^2 f}{\partial x_j \partial x_i}\) が一般に成立する. 先程見たベクトル場に沿う偏微分について同じことは言えるだろうか. すなわち、 \[X(Yf) =^? Y(Xf)\] だろうか.

ブラケット積

\(M\) 上の2つのベクトル場 \(X,Y\) がそれぞれ \(F_t, G_s\) というフローを生成するとする. \((F_t)_*\) は単に \(TM\to TM\) の接写像だが、 次のようなベクトル場への作用 \[(F_t)_*Y : M \to TM\] \[x \mapsto (F_t)_* ( Y( F_{-t}(x) ))\] を定める. すなわち、 \[((F_t)_* Y)(x) = (F_t)_*(Y(F_{-t}(x))).\] \(t\)\(-t\) に置き換えて、 \[((F_{-t})_* Y)(x) = (F_{-t})_*(Y(F_t(x))).\] 右辺をよく見るとこのベクトルは \(x\) から生えているので \(\in T_xM\) である.

適当な座標を与えて、

と書き直す.

\[\begin{align*} ((F_{-t})_* Y)(x) & = (F_{-t})_*(Y(F_t(x))) \tag{先の式} \\ & = (F_{-t})_* \sum_i \left( Y_i(F_t(x)) \frac{\partial}{\partial x_i} \right) \tag{$Y$ の座標表示} \\ & = \sum_i \left( Y_i(F_t(x)) (F_{-t})_*\left(\frac{\partial}{\partial x_i} \right)\right) \tag{ベクトル線形性} \\ & = \sum_i Y_i(F_t(x)) \sum_j \left(D(F_{-t})\right)_{i,j} \frac{\partial}{\partial x_j} \tag{ヤコビアン行列} \\ & = \sum_i Y_i(F_t(x)) \sum_j \frac{\partial x_j^{-t}}{\partial x_i} \frac{\partial}{\partial x_j} \\ & = \sum_{i,j} Y_i(F_t(x)) \frac{\partial x_j^{-t}}{\partial x_i} \frac{\partial}{\partial x_j} \end{align*}\]

\(x\) を固定して、\(t\) で微分する

\[\begin{align*} \frac{d}{dt} ((F_{-t})_* Y)(x) & = \sum_{i,j} \left[ \frac{d}{dt} Y_i(F_t(x)) \frac{\partial x_j^{-t}}{\partial x_i} \frac{\partial}{\partial x_j} + Y_i(F_t(x)) \frac{d}{dt}\frac{\partial x_j^{-t}}{\partial x_i} \frac{\partial}{\partial x_j} \right] \\ & = \sum_{i,j} \left[ \sum_k \frac{\partial Y_i}{\partial x_k} \frac{\partial x_k^t}{\partial t} \frac{\partial x^{-t}_j}{\partial x_i} \frac{\partial}{\partial x_j} + Y_i(F_t(x)) \frac{\partial}{\partial x_i} \frac{\partial x_j^{-t}}{\partial t} \frac{\partial}{\partial x_j} \right] \\ \end{align*}\]

\(\frac{\partial x_j^{-t}}{\partial t}\) について. \(F_t\)\(X\) のフローなので、 \(X = \frac{\partial F_t}{\partial t} \circ F_{-t}\) (生成するフローの定義). 逆向きのフローを考えれば (\(F_t \mapsto F_{-t}\))、 \(-X = \frac{\partial F_{-t}}{\partial t} \circ F_{t}\). \(-X \circ F_{-t} = \frac{\partial F_{-t}}{\partial t}\). \(j\) 番目の成分だけ取って \(-X_j \circ F_{-t} = \frac{\partial x^{-t}_j}{\partial t}\).

これを用いて、

\[\frac{d}{dt} ((F_{-t})_* Y)(x) = \sum_j\left[ \sum_{i,k} \frac{\partial Y_i}{\partial x_k} \frac{\partial x_k^t}{\partial t} \frac{\partial x^{-t}_j}{\partial x_i} - \sum_i Y_i(F_t(x)) \frac{\partial}{\partial x_i}(X_j(F_{-t}(x))) \right]\frac{\partial}{\partial x_j}\]

この \(t=0\) での微分値を考える. \[\left.\frac{\partial x^t_k}{\partial t} \right|_{t=0}=X_j\] \[\left. F_t(x) \right|_{t=0}=x, \left. F_{-t}(x) \right|_{t=0}=x\] なので

\[\begin{align*} \left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0} ((F_{-t})_* Y)(x) &= \sum_j\left[ \sum_{i,k} \frac{\partial Y_i}{\partial x_k} X_k(x) \delta_{i,j} - \sum_i Y_i(x) \frac{\partial X_j}{\partial x_i} \right]\frac{\partial}{\partial x_j} \\ &= \sum_j\left[ \sum_k \frac{\partial Y_j}{\partial x_k} X_k(x) - \sum_i Y_i(x) \frac{\partial X_j}{\partial x_i} \right]\frac{\partial}{\partial x_j} \\ \end{align*}\]

この値を \(\left[X,Y\right]\) と書いて、 \(X,Y\) のブラケット積 (括弧積) と呼ぶ.

定義

2つのベクトル場 \(X,Y\)ブラケット積 とは \(X\) が生成するフローを \(F_t\) とするとき、 \[\begin{align*} \left[ X,Y \right] & \equiv \left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0} ((F_{-t})_* Y)(x) \\ & = \sum_j\left[ \sum_k \frac{\partial Y_j}{\partial x_k} X_k(x) - \sum_i Y_i(x) \frac{\partial X_j}{\partial x_i} \right]\frac{\partial}{\partial x_j} \end{align*}\]

ブラケット積もまたベクトル場になっている.

諸性質

これらは定義から容易にわかる.

関数 \(f: M \to \mathbb{R}\) に対して \(M\) 上のベクトル場 \(X\)\[Xf : M \to \mathbb{R}\] が定まることは前の章で述べた.

定理

\[\left[X,Y\right]f = X(Yf) - Y(Xf)\]

これは正に初めに述べた、 ベクトル場に沿った微分の可換性についての答えになっている.

証明

ほぼほぼ、定義のまま.

\[\begin{align*} \left[X,Y\right]f & = \sum_j\left[ \sum_k \frac{\partial Y_j}{\partial x_k} X_k - \sum_i Y_i \frac{\partial X_j}{\partial x_i} \right]\frac{\partial f}{\partial x_j} \\ & = \sum_k X_k \frac{\partial}{\partial x_k} (Yf) - \sum_i Y_i \frac{\partial}{\partial x_i} (Xf) \\ & = X(Yf)-Y(Xf) \end{align*}\]

ヤコビ恒等式:

\[\left[\left[ X,Y \right], Z \right] +\left[\left[ Y,Z \right], X \right] +\left[\left[ Z,X \right], Y \right]=0\]

証明

ベクトル場 \(K\) がゼロであることを示すのに、一般の関数 \(f\) に対して \[Kf=0\] であるのを示せばよい. 直前の定理を用いて \[\left[\left[ X,Y \right], Z \right]f+\left[\left[ Y,Z \right], X \right]f+\left[\left[ Z,X \right], Y \right]f = 0\] を言えばよい. 式展開するだけなので略.

多様体 \(M=\mathbb{R}^2\) の上の2つのベクトル場 \(X=\frac{\partial}{\partial x_1}\), \(Y=x_1 \frac{\partial}{\partial x_2}\) を考える. 2つが生成するフローはそれぞれ

ブラケット積を定義どおり素朴に算出してみる. \[\begin{align*} Y(F_t(x)) & = Y(x_1+t, x_2) \\ & = (x_1+t) \frac{\partial}{\partial x_2} \\ (F_{-t})_* (Y(F_t(x))) & = (x_1+t) \frac{\partial}{\partial x_2} \\ \left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0} & = \frac{\partial}{\partial x_2} \end{align*}\] というわけで \(X,Y = \frac{\partial}{\partial x_2}\) が確認できた.

次に交代した \([Y,X]\) を今度も定義から素朴に計算してみる.

\[\begin{align*} X(G_s(x)) & = \frac{\partial}{\partial x_1} \\ (G_{-s})_* (X(G_s(x))) & = \left[\begin{array}{cc} 1 & 0 \\ -s & 1 \end{array}\right] \left[\begin{array}{c} 1 \\ 0 \end{array}\right] \\ & = \left[\begin{array}{c} 1 \\ -s \end{array}\right] \\ & = \frac{\partial}{\partial x_1} -s \frac{\partial}{\partial x_2} \\ \left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0} & = -\frac{\partial}{\partial x_2} \end{align*}\] というわけで確かに \([Y,X] = - [X,Y]\) であることが確認できた.