大数の法則

2019-12-15 (Sun.), 2020-01-07 (Tue.)

確率論 測度論

\(\def\F{\mathcal{F}}\def\R{\mathbb{R}}\def\BR{\mathcal{B}(\mathbb{R})}\def\RX{\mathbb R_X}\)

確率変数

確率空間 \((\Omega, \F, P)\) について, 関数 \(X \colon \Omega \to \R\) が可測であるとき, これを確率変数だという. 関数が可測であるとはすなわち, 任意の実数 \(a\) について, \[[X > a] \equiv \{ \omega \in \Omega \mid X \omega > a \}\]\(\F\) に属する(つまり可測空間である)こと. ちなみに \([X > a]\) の代わりに \([X \geq a]\) とか \([X < a]\) とかを使っても同値である.

\(X\) の像 \(\{ X\omega \mid \omega \in \Omega \} (\subset \R)\)\(\RX\) と書く.

確率変数の分布

確率変数 \(X\) に対してその分布を \(\mu_X\) と書くが, これは次のような関数 \(\RX \to \R\).

\[\mu_X(a) = P(X = a) = P \{ \omega \in \Omega \mid X \omega = a \}\]

以下で確率空間は固定して考える.

確率変数の独立性

加算無限個の確率変数 \[X_1, X_2, \ldots\] について次が成り立つ時, これらは 独立 であるという.

実数の上のボレル集合族 \(\BR\) の任意の集合 (要は加算無限個の開区間を和積差で組み合わせて出来る集合) \[E_1, E_2, \ldots \in \BR\] に対して \[P(X_1 \in E_1, X_2 \in E_2, \ldots) = \prod_i P(X_i \in E_i)\] が成り立つ.

念の為に補足すると, 左辺は \(\{ \omega \in \Omega \mid X_1(\omega) \in E_1 \land X_2(\omega) \in E_2 \land \cdots \}\) の確率測度で, 右辺は個々 \(\{ \omega \in \Omega \mid X_i(\omega) \in E_i \}\) の確率測度の積.

期待値、分散

確率変数 \(X\)期待値 を次で定義してそれを \(EX\) と書く.

\[EX = \int_\Omega X \, dP\]

特に \(P\) が離散であれば \(EX = \sum_{\omega \in \Omega} X \omega \times P(\omega)\) と書ける.

確率変数 \(X\)分散 を次で定義しそれを \(VX\) と書く.

\[VX = E (X - EX)^2\]

性質

独立であるが同じ分布を持つ(このことを iid と言う) \(X_1, X_2, \ldots, X_n\) を考える. これについて次が成り立つ.

マルコフの不等式

確率変数 \(X\) について次が成り立つ.

\[\forall \epsilon > 0, P(|X| > \epsilon) \leq \frac{1}{\epsilon} E |X|\]

証明

\(A = [ |X| > \epsilon ] \subset \Omega\) と置くと \(E |X| = \int_\Omega |X| \, dP \geq \int_A |X| \, dP \geq \int_A \epsilon \, dP = \epsilon \times P(A)\) より従う.

チェビシェフの不等式

\[\forall \epsilon > 0, P(|X - EX| > \epsilon ) \leq \frac{1}{\epsilon^2} VX\]

証明

マルコフの不等式と全く同様. \(A = \left[ |X-EX| > \epsilon \right] \subset \Omega\) と置いて, \(VX = E(X-EX)^2 \geq \int_A (X-EX)^2 \, dP \geq \epsilon^2 \times P(A)\) から従う.

確率変数の収束

確率変数の列 \(\{ X_i \}_{i=1,2,\ldots}\) の収束を次の二通りで定義する.

確率収束

次が成り立つとき, \(\{X_i\}\)\(X\) に確率収束するという. \[\forall \epsilon > 0, \lim_{n \to \infty} P(|X_n - X| > \epsilon) = 0\]

概収束 (almost surely convergence)

一般に、確率変数 \(X\) に関するある命題 \(\Phi(X)\) が成立する確率が 1 のとき, 「 ほとんど確実に \(\Phi(X)\) は成立する」と言い、「\(\Phi(X)\) a.s.」と書く. ここで "a.s." は almost surely の略.

ほとんど確実に 確率変数の列 \(X_i\)\(X\) に収束すること \[P(\lim_i X_i = X) = 1\]概収束 という.

一般に「概収束 \(\implies\) 確率収束」は成り立つ. つまり概収束のほうが確率収束より強い.

大数の法則

iid な \(X_1, X_2, \ldots\) を考える. 分布が等しいので \(m=E X_i\) と置いておく. 期待値 \(m\) も分散 \(VX_i\) も(発散せず)値を定めるとする. \(n\) 個の平均 \[Y_n = \frac{1}{n} \left( X_1 + X_2 + \cdots + X_n \right)\]\(n \to \infty\) のとき \(m\) に収束する.

この収束の仕方として確率収束を言うのを「弱法則」、ほとんど確実収束を言うのを「強法則」という.

弱法則の証明

\(\lim_n P(Y_n > \epsilon) = 0\) が成り立つことを言う.

まず先に確認することとして, \(EY_n = E(\frac{1}{n} \sum X_i) = m\),

\[\begin{align*} VY_n & = E(Y_n)^2 - (EY_n)^2 \\ & = \frac{1}{n^2} E(\sum_i X_i)^2 - m^2 \\ & = \frac{1}{n^2} E(\sum_i X_i^2 + \sum_{i \ne j} X_i X_j) - m^2 \\ & = \frac{1}{n^2} E(n X_i^2 + n(n-1) X_i X_j) - m^2 \\ & = \frac{1}{n} E(X_i^2 - m^2) \\ & = \frac{1}{n} VX_i \\ \end{align*}\]

\(i \ne j\) について \(E(X_i X_j) = m^2\) としたところに, 独立性を利用している

チェビシェフの不等式によれば,

\[\begin{align*} P(|Y_n - m| > \epsilon) & \leq \frac{1}{\epsilon^2} VY_n \\ & = \frac{1}{n\epsilon^2} VX_i \\ \end{align*}\]

最後の右辺は \(n \to \infty\) のとき \(\to 0\) なので, \(\lim_n P(Y_n > \epsilon) = 0\) が言えた.

(条件付きの)強法則の証明

\(E(X_i^4)\) の値(この値を4次モーメントという)が無限大に発散せずに値を定めると仮定したときに, \(P(\lim_n Y_n = m) = 1\) であることを示す.

4次モーメントが存在しなくても実はこの法則は成り立つ. もとの \(X_i\) が iid であって期待値が存在しさえすれば本当はいいんだけど, 証明が難しい.

\(E \left( \sum_i (X_i - m) \right)^4\) という値を考える. \(E\) の線形性から, 和について分解することを考える. このときに, \(E (X_i - m) (X_j - m)^3\) といった値は \(i \ne j\) とするとその独立性より \(E (X_i - m) \times E(X_j-m)^3\) に等しく, \(E (X_i-m)=0\) よりゼロである. 従って結局残るのは \(E(X_i-m)^4\) という項と, \(E(X_i-m)^2(X_j-m)^2\) という項だけ. このことに注目すると,

\[\begin{align*} E \left( \sum_i (X_i - m) \right)^4 & = n E(X_i-m)^4 + \left( \begin{array}{cc} 4 \\ 2\end{array} \right) \left( \begin{array}{cc} n \\ 2\end{array} \right) E(X_i-m)^2(X_j-m)^2 \\ & = n E(X_i-m)^4 + 3n(n-1) (E(X_i-m)^2)^2 \end{align*}\]

従って, \(E(Y_n^4) = \frac{1}{n^4} E(X_i-m)^n = o(n^{-2})\). すなわちある定数 \(C\) があって, \(E(Y_n^4) \leq C/n^2\) といえる.

次に列 \(Y_i\) の累積和を考えると, これは次のように収束する. \(E(\sum_{n=1}^\infty Y_n^4) = \sum E Y_n^4 \leq C \sum_i \frac{1}{i^2} < \infty\)

さてここで次の補題を主張する.

補題

iid な \(X_i\) について, \[\sum_i E|X_i| < \infty \implies P(\sum_i |X_i| < \infty) = 1.\]

絶対値を取ってるのは単に、正の確率変数であることを約束させるために過ぎない. 甘んじて \(\sum_i E|X_i| = E(\sum_i |X_i|)\) であることまでは認めてもらうと, \(A = [ \sum_i |X_i| < \infty ] \subset \Omega\) とおいて \(\sum_i E|X_i| = \int_A |X_i| \, dP + \int_{\Omega \setminus A} |X_i| \, dP \geq \int_{\Omega \setminus A} |X_i| \, dP = P(\Omega \setminus A) \times \infty\) なので, \(P(\Omega \setminus A)=0\) でなければならない. 従って \(P(A)=1\).

この補題を \(|X_n| = Y_n^4\) として適用すると, \[P(\sum_n Y_n^4 < \infty) = 1\] が言えた.

数列 \({Y_n^4}\) が非減少単調列でこれの累積和が概収束するので, \[P(\lim_n Y_n^4 = 0) = 1\] が言えた. 従って \[\lim_{n \to \infty} Y_n = 0 ~~~ a.s.\] であることも明らか.