2017-05-28 (Sun.)
多様体 \(M\) に関して \(M \to M\) なる写像自体が時刻 \(t \in [0, 1]\) に関して連続に写るとする. すなわち \(C^\infty\) 級の
\[F : \mathbb{R} \times M \to M\]があるとき、これを
\[F : [0,1] \times M \to M\]に制限し、 \(F_t(x) = F(t, x)\) と定めることで、 時刻 \(t\) をパラメータとして取る
\[F_t : M \to M\]を得る.
このような \(F_t\) が微分同相であり、かつ \(F_0 = id_M\) のとき、 \(F_t\) のことをアイソトピーという.
\(t\) の定義域を \([0,1]\) に制限する前の
\[F : \mathbb{R} \times M \to M\]であって、やはり
\[F_0 = id_M\]であって、加えて次のような、群の作用性
が満たされている \(F_t(x) = F(t,x)\) のことを \(M\) 上の フロー という.
多様体 \(M\) の上のベクトル場とは点 \(x \in M\) にベクトルを与えるものである. すなわちベクトル場 \(X\) とは
\[X : M \to TM\] \[X : x \mapsto (u \in T_xM)\]なる写像のこと.
アイソトピー \(F_t\) からベクトル場 \(X_t\) を導くことが出来る. 流れとしては逆だけど「ベクトル場 が アイソトピーを生成する」と表現する. また以下の議論はフローについても全く同様に出来、従ってフローからベクトル場を導くことが出来る.
アイソトピー \(F_t\) についてある基点
\[F(t_0, x_0) = y_0\]を1つ定める.
直感的には下図のようである. 即ち、基点から \(t\) だけをほんの少し動かすと、 \(F\) の先もほんの少し動く ( \(y_1\) とする). \(M\) の上で正にベクトル \(\vec{y_0~y_1}\) が作られたことに成る. これを各点 \(x\) について用いれば ( \(t_0\) は固定して)、 \(M\) の上のあらゆるところでベクトルが作られ、従ってベクトル場が出来る.
\[ \require{amscd} \begin{CD} (t_0, x_0) @>F>> y_0 \\ @. @V!VV \\ (t_1, x_0) @>F>> y_1 \end{CD} \]形式的には次のように書ける. 今 \(x=x_0\) を固定し、 \(t\) を動かすとき、これは軌道 (曲線)
\[y(t) = F(t, x_0)\]を描く.
これは \(y_0\) を通る曲線であるので、 \(y_0\) の上のベクトル
\[\frac{d}{dt} y(t) = \frac{d}{dt} F(t, x_0)\]と見なせる.
\(t \mapsto (x \in M)\) な関数 \(g\) に対して \(\frac{d}{dt}g(t)\) は \(M\) の上のベクトルを指す. この \(\frac{d}{dt}\) は実関数の (偏) 微分のことではない. 4章 の内容であるが、 これは \(\frac{d}{dt} (\phi \circ g)(t)\) の値 (これは微分値) によって同一視して出来る多様体の上のベクトルのことである. なので \(g\) が \(g(t, x)\) といった多変数関数であっても \(\frac{\partial}{\partial t}g\) ではなく \(\frac{d}{dt}g\) と書く.
ベクトル場としては、 \(M\) の上の点 \(y\) を与えた時に \(y\) を通るベクトルを返す関数である必要がある. そこで \(x_0 = F_{t_0}^{-1}(y_0)\) を前に挟む必要がある.
\[X_{t_0}(y) = \frac{dF}{dt} (t_0, F_{t_0}^{-1}(y))\]すなわち、
\[X_{t_0} = \frac{dF}{dt} (t_0) \circ F_{t_0}^{-1}.\]紛らわしいが次のように書くこともある:
\[X_{t} = \frac{dF_t}{dt} \circ F_{t}^{-1}.\]次を使う.
\(m\) 次元多様体 \(M\) の上の曲線 \(\gamma : [0,1] \to M\) を局所座標を用いて成分表示をする. すなわち、
\[f = \phi \circ \gamma\] \[f_i = \phi_i \circ \gamma ~~(i=1,2,\ldots,m)\]ここで \(f_i\) は \(\mathbb{R}^m \to \mathbb{R}\) なる実関数に過ぎないことに註意. これを用いて、 \(\gamma\) が表現するベクトルは
\[\left[\gamma\right] = \sum_{i=1}^m \frac{df_i}{dt}(t_0) \frac{\partial}{\partial x_i}\]\(X_t\) にこれを適用する.
\[f(t, y) = (\phi \circ F_t \circ F_{t_0}^{-1})(y)\]と置くとき、
\[X_{t_0} = \sum_i \frac{d f_i(t, y)}{dt}(t_0) \frac{\partial}{\partial x_i}.\]ただし、 \(y \in M\) を引数にするよりも、その局所座標 \(y_1, y_2, \ldots, y_m\) を引数にする方が便利かもしれない. だって上の \(f_i\) は \([0,1] \times M \to \mathbb{R}\) であって陽に書けず、微分の計算をするときに想像力が必要となるから.
そのときは
\[f(t, y_1, \ldots, y_m) = (\phi \circ F_t \circ F_{t_0}^{-1} \circ \psi^{-1})(y_1, \ldots, y_m)\]に対して
\[X_{t_0} = \sum_i \frac{d f_i(t, y_1, \ldots, y_m)}{dt}(t_0) \frac{\partial}{\partial x_i}.\]と出来る.
局所座標でいきなり書く (或いはユークリッド空間の上の多様体を考える).
\[F_t : \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2\] \[F_t(x, y) = (e^t x, e^{-t}y)\]が導くベクトル場がどんなものか考える.
ベクトル場 \(X_{t_0}\) を求めた時点でパラメータ \(t_0\) を改めて \(t\) と置いて \(X_t\) などと書くが、 この例では \(X_t = (x, y)\) となって \(t\) に依存しない形に偶然なった.
上の議論から、フロー \(F_t\) からベクトル場 \(X_t\) を導くこともできるのだが、重要な性質として、 フローを生成するようなベクトル場 \(X_t\) は \(t\) に依存しない.
フローの性質から
\[F_t(x_0) = F_{t - t_0}(F_{t_0}(x_0))\] \[\iff F(t, x_0) = F(t - t_0, F_{t_0}(x_0)).\]両辺を \(t\) についての軌道と見做し \(t=t_0\) の時のベクトルを取る.
\[\frac{dF}{dt}(t_0, x_0) = \frac{dF}{dt}(0, F_{t_0}(x_0)).\]ここで、 \(F_{t_0}(x_0) = y_0 \iff x_0 = F_{t_0}^{-1}(y_0)\) と置けば、
\[\frac{dF}{dt}(t_0, F_{t_0}^{-1}(y_0)) = \frac{dF}{dt}(0, y_0)\]を得る. 更に更に \(F_0\) が恒等写像であることを思い出して、
\[\frac{dF}{dt}(t_0, F_{t_0}^{-1}(y_0)) = \frac{dF}{dt}(0, F_0^{-1}(y_0)).\]ここで \(dF/dt=X_t \circ F\) のあの式を適用すると
\[X_{t_0}(y_0) = X_0(y_0)\]を得る. \(y_0\) は \(t_0\) と独立に決められるので一般に
\[X_{t_0} = X_0\]となる. \(t_0\) も自由に決められるので、結局、ベクトル場 \(X_t\) は \(t\) に依存しない形になっている.
フロー
\[F_t : \mathbb{R} \to \mathbb{R}\] \[F_t(x) = x + t\]が導くベクトル場を考える. \(F_t\) の成分を与える実関数は
局所座標としてはそのまんまの座標を与えた. \(\frac{\partial f}{\partial t}(t, x) = 1\) から \(X_{t_0}(x) = 1 \cdot \frac{\partial}{\partial x}\) . 確かに \(t\) に依存しない.
フロー
\[F_t : \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2\] \[F_t(x, y) = (x \cdot \exp(t), y \cdot \exp(t))\]\(t=t_0\) の時の微分値を成分にするので、結局
\[X_{t_0} = x \frac{\partial}{\partial x} + y \frac{\partial}{\partial y}\]となる. やはり確かに \(X_t\) は \(t\) に依存しない.
多様体 \(M\) 上のフロー \(F_t\) と、ある点 \(x \in M\) について
\[\{ F_t(x) : t \in \mathbb{R} \}\]を、 \(x\) を通る軌道 (orbit) という.
が成り立つならば
\[\exists n \in \mathbb{N}, |t_1 - t_2| = nT.\]つまり、軌道がある一点 \(F_t(x)\) を複数回通るならば、周期 \(T\) で何度もその点を通っている.
その点を通る時刻について考える. ただその前に
\[F_{t_1}(x) = F_{t_2}(x)\]について、 \(F_{ - t_1}\) を掛ければ
\[x = F_0(x) = F_{t_2 - t_1}(x)\]となるので、「軌道が点 \(F_t(x)\) を通る」とか言わずに「点 \(x\) を何度も通る」という状態を考えればいい.
軌道が \(x\) を通る時刻の集合
\[A = \{ t : F_t(x) = x \}\]を考える. これは実は群になっていて、
こんな感じ. 加えて \(A\) は閉集合である. そのことを示すために前に この記事 で書いたことを使う. つまり、
\(A\) の元からなる一様収束する列の収束値が常に \(A\) に属するとき、 \(A\) は閉集合
これを使う. 今の場合これは自明で、収束する列 \(\{a_i \in A\}\) の収束値を \(a = \lim a_i\) とすると、 \(F_a(x) = \lim F_{a_i}(x) = \lim x = x\) より、 \(a \in A\) .
というわけで \(A\) は \(\mathbb{R}\) の閉部分群.
先程はアイソトピーからベクトル場を導いた. 従ってフローからベクトル場を導くこともできる. ここでは逆に、一定の条件下でベクトル場 \(X_t\) からフロー \(F_t\) を導けることを言う.
言ってしまえばこれは \(F(t_0, x) = x\) の初期条件下で \(\frac{d}{dt} F(t, x) = X_t(t, F(t, x))\) という微分方程式の解 \(F\) を求めることに他ならない
一定の条件下で解 \(F\) は存在して一意である.
があって \(X(t, x)\) は \(x\) に関してリプシッツ連続だとする. すなわち
\[\exists L>0, \forall t,x_1,x_2, \|X(t,x_1)-X(t,x_2)\| < L \|x_1-x_2\|\]だとする. このとき、 適当な十分小さい \(\epsilon\) があって
\[F: (t - \epsilon, t + \epsilon) \times K \to U\]であって
なるものが存在する. ただし \(K\) は任意の \(U\) の部分コンパクト集合. ( \(\forall K, \exists \epsilon, \exists F\) .)
証明は略. 微分方程式を頑張って解くだけ.
実際に導く過程は、フローからベクトル場を導いた過程の逆をするだけ.
ベクトル場 \(X_t : M \to M\) について、これを
\[X_t(x) = \sum_i \xi_i(t, x) \frac{\partial}{\partial x_i}\]という成分表示する.
求めたいフロー \(F_t\) について、適当な局所座標で挟んで
\[\left(\psi \circ F_t \circ F_{t_0}^{-1} \circ \phi^{-1}\right) = f(t, x) = \left[ \begin{array}{c} f_1(t, x) \\ \vdots \\ f_m(t, x) \\ \end{array} \right]\]とする. \(f_i\) は \([0, 1] \times \mathbb{R}^m \to \mathbb{R}\) という実関数である.
このとき、
\[\frac{\partial}{\partial t} f_i(t, \xi_i(t, x)) = \xi_i(t, x)\]ただし初期条件 \(f_{t_0}^i(x) = x\) の下で解いて更に \(f_i\) から \(F_t\) を求める.
割と気合だけど、 一意性だけは保証されているので、頑張って1つ見つければよい.
例題として、 \(\mathbb{R}\) の上のベクトル場
\[X_t(x) = \frac{\partial}{\partial x}\]を考える.
\(X_t\) を成分表示すると \(\xi(t, x) = 1\) なる定数関数なので \(\frac{\partial}{\partial t} f(t, \xi(t, x)) = \frac{\partial}{\partial t} f(t, x)\) . 従って \(f(xt, ) = t + C\) (積分定数). 初期条件より \(f(t, x) = t - t_0 + x\) . \(F_t(x) = t + x\) とすると (天啓)、 \(F_t(F_{t_0}^{-1}(x)) = F_t(- t_0 + x) = t - t_0 + x = f(t, x)\) と合ってるのでこれが解.
あくまでも一定の条件下でしかフローは導けない. 次は出来ない例.
\[X_t(x) = x^2 \frac{\partial}{\partial x}\]成分表示をして
\[\xi(t, x) = x^2.\]\(\frac{\partial}{\partial t} f(t, \xi(t, x)) = \xi(t, x)\) すなわち \(\frac{\partial}{\partial t} f(t, x^2) = x^2\) の解は実は
\[f(t, x) = \frac{x}{1 - xt} + C\]である.
これを用いてフロー \(F_t(x)\) を探したいが、 それよりも \(f\) が \(t=1/x\) の時に定義されてないのでダメ.