層
2017-11-12 (Sun.)
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\[\def\O{\mathcal{O}}\]
前層 (preshaef)
二通りの定義を与える.
定義1
位相空間 \(X\) の
前層 とは、 集合 \(A\) , 関数 \(E: A \rightarrow \O(X)\) , 関数 \(\rceil: A \times \O(X) \rightarrow A\) ( \((a, U) \mapsto a \rceil U\) ) からなる三組 \((A, E, \rceil)\) であって次のようなもの.
- 任意の \(a, b \in A\) に対して \(a \rceil \emptyset = b \rceil \emptyset\)
- \(a \rceil Ea = a\) \(~~~\) (註意: \(\rceil\) の結合則は \(E\) の適用より弱い)
- \(E (a \rceil U) = E a \cap U\)
- \((a \rceil U) \rceil V = a \rceil U \cap V\) \(~~\) (註意: \(\cap\) の結合則のが \(\rceil\) より強い)
例
関数の集合 \(A\) , 関数の定義域を与える手続き \(E\) , 普通の意味で関数の(定義域の)制限 \(\rceil\) .
註意すべき点として、層としての制限 \(\rceil\) の右項には \(Ef\) よりも広い集合を与えても構わないということ. 関数の制限 (これを区別する意味で \(\lceil\) と書く) の右項には普通、ドメインより小さい領域を与えるだろう. そこで次のように \(\rceil\) を定め直せばよい:
\[f \rceil U := f \lceil (Ef \cap U)\]
また、ドメインが空集合な関数は空集合ただ1つである.
\[f \rceil \emptyset = \emptyset = g \rceil \emptyset\]
ドメイン (定義域) が空集合であるような関数は 存在しない しないのではなく, 唯1つ 存在することに註意 (参考; 空関数 ).
明らかに前層とはこれを抽象化したものである
定義2
位相空間 \(X\) の
前層 とは、 \(X\) の開集合を適当な集合の集合 \(\mathcal{A}\) に写すような
\[F : \O(X) \to \mathcal{A}\]
及び \(U,V \in \O(X)\) について \(U \subseteq V\) ならば
\[r_{UV} : F(V) \to F(U)\]
が定まっているようなもの. これらの \(\left(F, r = \{ r_{UV} : U, V \in \O(X) \}\right)\) を前層だという. ただし次を要請する.
- \(F(\emptyset)\) は単集合
- \(r_{UU}\) は恒等写像
- \(U \subseteq V \subseteq W\) のとき \(r_{UW} = r_{UV} \circ r_{VW}\)
こちらは圏論的に 関手 として前層を定義している (参考; 前層はモノイド(右)作用の一般化 ).
これら2つの定義が等価であることを確認する.
定義1 → 定義2
前層が \((A,E,\rceil)\) で与えられた時、次で定義2を構成できる.
- \(F(U) = \{ f \in A : Ef = U \}\)
- \(r_{UV}(f) = f \rceil U\)
要請を満たすことを確認する.
-
\(F(\emptyset) = \{ f : Ef = \emptyset \}\) は単集合か?
- \(f = f \rceil (Ef)\) より \(f \in F(\emptyset) \Rightarrow f = f \rceil \emptyset\)
-
\(F(\emptyset)\) が 2つ以上の要素をもって \(f,g\) がそうであるとき、
- \(f = f\rceil \emptyset = g\rceil \emptyset = g\)
- 従って、 \(F(\emptyset)\) は要素を高々1つしか持たない
-
また \(F(\emptyset)\) は空集合でもない
-
任意の \(a\) について
- \(E(a \rceil \emptyset) = Ea \cap \emptyset = \emptyset\)
- であるので、 \((a \rceil \emptyset) \in F(\emptyset)\)
-
\(r_{UU}\) は恒等写像か?
-
\(r_{UW} = r_{UV} \circ r_{VW}\)
- \(r_{VW} : F(W) \to F(V)\)
- \(r_{UV} : F(V) \to F(U)\)
-
\(f \in F(W) = \{ f : Ef = W \}\) について
- \(r_{VW}(f) = f \rceil V\)
- \((r_{UV} \circ r_{VW}(f) = (f \rceil V) \rceil U = f \rceil (V \cap U) = f \rceil U = r_{UV}(f)\)
というわけでok.
定義2 → 定義1
逆に前層が \((F, r)\) で与えられたとき、 先ほどの全く逆によって構成できる.
- \(A = \bigcup_{U \in \O(X)} F(U)\)
- \(f \in F(U) \iff Ef = U\)
-
\(f \rceil U = r_{VW}(f)\)
- where \(V = U \cap W, W=Ef\)
要請を満たすことを確認する.
-
\(a,b \in A\) について
-
\(a \rceil \emptyset = r_{VW}(a)\)
-
ここで \(V = \emptyset, W = Ef = U_a\) で
- \(r_{VW} : F(W) \to F(V)\)
- \(F(V)\) は単集合であるので、 \(r_{VW}\) は一点に写す関数
- 従って \(r_{VW}(a) = r_{VW'}(b)\)
- よって \(a \rceil \emptyset = b \rceil \emptyset\)
-
\(f \rceil (Ef) = r_{VW} f\)
- ただし \(V = Ef \cap W, W = Ef\)
- なので \(V=W\) なんで \(r_{VW}\) は恒等写像
- というわけで、 \(f \rceil (Ef) = f\)
-
\(f \rceil U = r_{VW}(f) \in F(V)\)
- ここで \(V = U \cap Ef\)
- \(E(f \rceil U) = V = U \cap Ef\)
-
\((f \rceil U) \rceil V = f \rceil (U \cap V)\)
ところでしかし、この定義1と2とが本当に対応してるかを見るには、 定義1の前層を定義2に(上の方法で)した後、再び(上の方法で)定義1に戻して得た前層が、元の前層と同じ (あるいは同型) であることを確かめないといけない.
両立 (compatible)
前層 \(A\) の2つの元 \(f, g \in A\) が 両立 するとは、
\[f \rceil Eg = g \rceil Ef\]
とあること.
関数集合の例でいうと、 定義域の交わる部分で関数の値が一致することを表す.
層 (sheaf)
やはり二通りの定義を与える.
定義1
\(X\) の上の前層 \(A\) が次を満たすとき、 \(A\) を \(X\) の上の 層 と呼ぶ.
-
\(\forall f,g \in F\) が両立するような \(F \subset A\) に対して、次の2つを成立させる \(g\) が唯一つ存在すること
- \(\forall f \in F, g \rceil Ef = f\)
-
\(Eg = \bigcup_{f \in F} Ef\)
- このような \(g\) を \(F\) に対して \(\cup F\) と書く
例
前に述べた関数の例は層である
定義2
定義1と同値な定義を与える.
位相空間 \(X\) に対して 位相空間 \(S\) と局所同相写像 \(p: S \to X\) があるとき、 \((S, p)\) を \(X\) の上の 層 という.
ここで \(p: S \to X\) が局所同相写像とは、任意の点 \(s \in S\) に対して、 定義域を \(s\) を含むように適切に小さく制限して得た写像 \(p \lceil U\) が同相写像であること.
定義1 → 定義2
層 \(A\) が与えられた時、
\[\tilde{S} = \{ (x, f) ~:~ f \in A, x \in Ef \}\]
\(\tilde{S}\) の上の同値関係
\[(x_1,f_1) \equiv (x_2, f_2) \iff
x_1=x_2
\land
\exists U (x \in U), U \subseteq Ef_1\cap Ef_2 \land
f_1 \rceil U = f_2 \rceil U\]
で割って
\[S = \tilde{S}\!\!\equiv\]
とする. 同値関係で明らかに \(x\) については1つに定まるので
\[p : S \to X\]
\[p (x, f) = x\]
という関数が定まる.
\(S\) に位相を入れる. \(x \in X\) の近傍を \(V_x\) とするとき \((x,f)\) の近傍を
\[\{ (y, f) /\! \equiv ~:~ y \in V_x\}\]
と定める. これによって位相を入れる ( 近傍によって位相を入れる 参照).
以上の \((S,p)\) が層 \(A\) に対応する定義2の形の層である.
定義2 → 定義1
\(X\) 上の層 \((S,p)\) から \((A,E,\rceil)\) の形の層を次のようにして構成できる.
\(U \in \O(X)\) について
\[\Gamma(U) = \{ f : f:U \to S, p \circ f = i \}\]
として
- \(A = \bigcup \Gamma(U)\)
- \(Ef=U \iff f \in \Gamma(U)\)
-
\(f \rceil V = f \lceil (V \cap Ef)\)
定義2 であっても前層でかつ定義1の層と一致することがわかる.
ここで \(\Gamma\) の定義で出てくる \(i\) は \(U \to X\) の埋め込みである. \(\Gamma(U)\) の要素は \(p\) に対する \(U\) 上の切断のこと. 以下のような可換図式が成り立つ.